頭の上の蝿を追え

しがない某京大生が日常を綴る

中山道中車輪栗毛

今年の春は遅かった記憶がある。温かい風が頬をくすぐりだした頃、私はあることを思いついた。

ゴールデンウィークに何の予定も入らなかった。今年は10日間もあるのだから中山道を自転車で辿れる。」

私は思いつくや否や行程の計算を始めた。「いける」と確信した私は実行に移すまで早い。

4月27日、最低限の荷物をもって京都の三条大橋を発った。寝泊まりするテント、寝袋、カメラ、携帯用工具があれば十分だ。

その日は雨予報。京都は晴れていたが逢坂関を越えしばらくすると風の力を得て刃と化した雨が顔にあたる。もだえながら自転車を漕ぐと彦根に入ったあたりでさっきまでの雨が嘘だったかのように晴れた。神様は信じてみるものである。

だが佐和山のあたりで次はパンクしてしまう。動画などでパンク修理の方法は学んでいたつもりなのだが実際やってみると難しい。なんと1時間もかけてようやく再出発を果たした。なんとも幸先の悪いスタートだ。

1つめの目的地は醒ヶ井宿。醒ヶ井宿は中山道の宿場の1つで清らかな水が流れることで今も知られている。旧宿場町としての側面を残しており川と町が共存する姿には江戸時代の面影を感じられる。
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醒ヶ井で汲まれる名水を利用した水羊羹に舌鼓を打ち再び自転車に跨る。

醒ヶ井まで来たら美濃国まではもうすぐだ。古代から君臨し続けた関ヶ原を超えなければならない。

関ヶ原までは2時間弱。素通りするわけにも行かずこの地で眠る英霊たちに誘われるように関ヶ原古戦場跡へ向かった。関ヶ原は大規模な戦が行われていただけのこともあり小高い丘と控えめな原っぱが広がっていた。

江戸時代を作り上げた英雄たちに感謝し手を合わせた。

 

関ケ原で出会った親子に話しかけられた。明らかにただの観光客という格好をしていなかったからであろう。

「兄ちゃん、これからどこまで行くん?どっから来たん?」

「京都から来ました。中山道を辿って東京まで抜けるつもりです。」

子供はまだ小さく何のことやらわかっていない様子だったが、父親の方が目を丸くさせていた。少しの雑談をし激励の言葉を頂いた。ずっと一人でいると人と喋る機会はなかなかない。一人旅ではこうした他愛もない会話が嬉しいものである。

関ヶ原を出たら暗くなるまで進む。時間と体力に制約がある自転車旅では進めるうちに進まなければならない。その日は各務ヶ原まで。全部で130km607mのアップ。まだまだ1日目、東京は遥か先だ。明日から待ち受ける本格的な山道に腹を括りながら1日目を終えた。