頭の上の蝿を追え

しがない某京大生が日常を綴る

奈良県は南側を攻めろ

奈良県

それは大阪府の隣に位置し大阪の中心部から電車一本で行けるアクセスの良さ、程よい近さを兼ね備えている。関西にとどまらず関西周辺地域に住む人なら一度は行ったことがあると思う。

ではどこに行ったのか尋ねてみるとみな口を揃えて「東大寺興福寺平城京」、あるいは「法隆寺」といった史跡の名を挙げるだろう。それもそのはず、奈良県は京都よりも以前から都が置かれた。大和地域は古代における政治の中心地だった。確かに奈良県の持つ歴史に思いをはせることは我々日本に生きる人にとっては必要不可欠だ。しかし奈良県の魅力は果たして歴史資源だけなのだろうか?

奈良県に観光へ来る人の多くは奈良県北部だけを見て帰る。それではもったいない。

では奈良県南部に何があるか考えたこともないと思う。南部にあるもの。それは「大自然」である。

奈良県は3分の2を森林地帯が占める。その中でも特に和歌山県三重県奈良県にまたがる紀伊山地は関西最高峰の山である八経ヶ岳を抱えるなど険峻な地形である。そしてその紀伊山地は厳しいであるがゆえに美しい自然で溢れかえっている。

今回、私は友人と奈良県吉野郡天川村に位置する「御手洗渓谷」と「洞川温泉郷」へ訪れた。

近鉄南大阪線下市口駅からバスに揺られること約40分、天川川合というバス停で下車する。降りた瞬間、誰しもが明らかに体を包む空気の違いに気づくだろう。天川村はやや標高が高く平地よりはひんやりとしている。バス停から歩くこと約30分、目の前に突如としてエメラルドブルーの色をした川の景色が広がる。

今回の旅の目的である。私は川が好きで今年の夏こそは泳ごうと決めていた。大自然に囲まれた中での川遊びは気持ちがいいに違いない。
川に足を踏み入れる。体が縮こまるくらいに冷たい。後に調べて分かったことだが、天川村を流れる川の水温は夏でも15℃を下回ることがあるらしい。どおりで冷たいわけだ。最初は拒絶した体も徐々に天の川を受け入れはじめた。川岸の岩から飛び込み水面に浮かぶ、その単純な動作だけでも日常にはない喜びを与えてくれる。

川遊びもほどほどに。今回のメインイベントは川遊びだけではない。再び国道309号線に沿って30分程歩くと次の目的地に着いた。それが「御手洗渓谷」である。実は去年の秋にも御手洗渓谷を訪れたことがある。その時はちょうど紅葉シーズンを迎えておりあたり一面を赤と黄色の葉が覆いつくしていた。真夏の御手洗渓谷はそれと打って変わって緑の世界。ただ御手洗渓谷の散策路の厳しさ、こいつだけは変わっていない。やや懐かしさに浸りながら歩みを進める。

御手洗渓谷は洞川温泉郷とセットのようなところがある。御手洗渓谷の入り口から7kmほど歩くと洞川温泉郷に着く。御手洗渓谷の散策路は木々に囲まれ美味しい空気を吸いながら歩ける反面、アップダウンが激しく体力も消耗する。洞川温泉で疲れをいやす他にない。

程よく温泉につかるだけでは「温泉」を楽しんだうちには入らない。温泉街を回ってこそ温泉を楽しんだと胸を張って言えるのである。洞川温泉郷は有馬温泉下呂温泉など著名な温泉街とはまた別の雰囲気を醸し出す。賑やかさや華やかさはなくひっそりとした雰囲気を持ち洞川温泉に住む人々のゆっくりとした時間の流れにいつのまにか身をゆだねさせられる。洞川温泉近辺の清流で獲れた子持ち鮎をつつきながら現実世界へ戻すバスに戻った。